(4)糸作り

長さ50cm程度の毛は1本ずつ職人の手により繋ぎ合わされます。
これは撚糸と呼ばれる作業で、幅が広く長い反物を織るために必要不可欠な作業です。
そして300cm以上に繋がれた毛はカセに巻き(ミシンのボビン巻きのようなもの)織るために最終段階の糸巻き状態にします。
飛翔織には、縦糸・横糸の両方に尾毛を使う「馬毛織」と縦糸に麻または綿,横糸に尾毛を使う「クロス織」の2種類があり、馬毛織は天然馬毛の光沢と風合いを生かした神秘的な織物を表現し、クロス織は天然馬毛の風合いを生かして独特な縞模様を表現する2種類の織物があります。
(5)織作業
馬毛は非常に張りがあり、馬毛糸をよくお湯で湿らせてから織り上げます。
特に耳と呼ばれる生地の両端の部分で、馬毛の張りの強さにより跳ね返ったり、馬毛糸が折れてしまわないように注意します。
また織ってもすぐに元に戻ろうとする力が非常に強く、一回ずつ機を踏むたびに切れ・ホツレ・縮みがないか検査しながら織り上げます。
入念な織り作業の後、毛羽立ちや汚れ等をきれいにする為に整理と呼ばれる作業を行います。
そして光沢や風合いを最大限に表現するために2~6本の馬毛糸をランダムに織り上げることにより太陽光に反射して神秘的に輝くと同時に、天然の記憶形状の性質を生み出しています。
帽子への熱き想い
馬毛「飛翔織」は、天然素材の持つ光沢と風合いを生かして、様々な製品に形を変えていきます。
例えば帽子もその一つ。馬毛織帽子は、帽子の持つ曲線と馬毛織の特徴を生かして、夏の眩いばかりに降り注ぐ太陽光線の中、目や額を、その奥深い天然色はほおを引き立たせて、上品な雰囲気を醸し出し、通りかかる人の目を奪うかのようで、結局のところ、馬毛織帽子は、ダイヤモンドやルビーといった高価な宝飾はついていないものの、その光沢と風合いから王冠のような雰囲気を作り出しているのです。
この帽子をかぶれば誰でも、女性ならば女王のような厳かな気持ちになれるのです。
それがすべてのファッション同様、自己表現方法だと考えているのです。日光や風を遮るための便宜的な帽子というのではなく、大胆で、楽しく、厳かに、かつ挑戦的で、、、、そんな帽子作りを目指して日々努力しているのです。帽子は人のイメージを決定づけます。
ですから、帽子と人を切り離して考えることは出来ません。例えば、馬毛「つば広」帽子を例にとれば、フォーマルな時には、船長の時化帽(サウウエスター)のように広つばを後ろにしっかりとしてかぶり、大人のイメージを漂わせます。
またカジュアルな時には、広つばを前に持ってくることで洗練された雰囲気を引き出します。
ここから先は馬毛織帽子を作る職人についてご紹介します。
(1)影から日向の存在へ
馬毛は元来特殊な高級帽子の土台として用いられてきました。その素材は「軽く」「湿気の影響を受けない」「張りのある」特製の織物で、例えば通常ブレード状(帯状)に編み上げた素材に加工してから特殊帽子用ミシン、もしくは木型状で手縫いによって仕上げられる高級帽子の材料なのです。
これは馬毛の特性でもある、1本1本が「曲げる」「伸ばす」「縮める」といった加工が難しいものを帯状にすれば比較的型状化しやすいからです。
しかしこの技術もかなり熟練を要した職人でも難しく、加工できる職人も数えるほどまで激減しました。
また、ブレード素材としてはこれまでスイスが有名ではありましたが、ここ数十年前よりその技術は途絶えています。
このように馬毛織の加工は至難の技でいつも帽子職人の頭を悩ませています。
馬毛「飛翔織」では、これまで単なる部品に過ぎなかった馬毛を、部品ではなく原材料にすることができるようになりました。
(2)職人技の復活
帽子作りには「曲げる」「伸ばす」「縮める」といった3要素が重要な必要となってきます。
反面、馬毛はこの3要素を全く受け付けることのしない、作るという観点からいえば、帽子の製造には向かない素材なのです。
しかし機能的な面で言えば「軽い」「張りがある」「通気性が良い」という大変魅力的な素材です。馬毛に似ている素材として、麻・綜葦・麦などの繊維はありますが、意外と加工しやすい材料なので製造方法を応用することは出来ませんでした。
この馬毛織帽子の製作にあたり、従来の縫製帽子とは全く製造方法が変わり、ブレード素材の加工を基本として、数多くの試作を積み重ねてきました。
このたび、途絶えていた職人の技の復活に多くの尽力と知識の結集をしまして、現在の馬毛「飛翔織」帽子を完成することはできるようになりました。
(3)帽子への加工

この素材には大きな3つの課題がありました。それはミシンの針が馬毛に強く当たると針が折れてしまう点。
また職人が縫製中に馬毛によって指を傷つけてしまうこと。
さらに通常パーツを何個も組み合わせ組み立てて加工するものも、馬毛織はその性質上不可能に近い状態になっていることです。
馬毛には天然記憶形状の性質がありますから、裁断方法の段階から工夫し、特殊ミシンを使って「やわらかい丸み」を生み出しています。
この帽子を作るにあたり、細部にまで配慮がなされ、数人の熟練職人でも月産100個程度を作るのが精一杯です。
製作にあたり、これまでの帽子つくりの常識を根底から覆すものになったことは間違いありません。